2024年9月7日・8日に実施された予備試験論文式試験。
今年は、法科大学院の在学中受験の資格で司法試験を受験したため、予備試験は受験できず。
ですが、こうして予備試験が気になってしまうのは、予備試験が好きなんでしょうね。
「失ってみて初めて気づく大切なモノ」みたいな感じです(笑)
冗談はさておき、標題の件です。
ワタクシ自身も問題に目を通し、解いてみました。また、再現答案をnoteやX、ブログなどで公開している方が多数いらっしゃいましたので、拝見いたしました。
そこで、気になったことや考えさせられたことがありましたので、ブログの記事にして残しておこうと思い、本稿を書いた次第です。
なお、予め申し上げておきますが、公式の出題趣旨が発表されておりませんので、本稿は、あくまでもワタクシ個人の分析・私見です。もちろん、違った見方をされる方もいらっしゃると思います。本稿に書いたことが正解であるというつもりは全くありません。ですので、参考程度にご覧いただければと思います。
事案の概要
事案の詳細は、問題文に譲りますので、そちらをご覧ください。 https://www.moj.go.jp/content/001424480.pdf
かいつまんで書くと、
- 株主Dが、保有株式の売却を希望し、代表取締役Aに相談した。
- Aは、発行会社である甲社が、Dの保有株式を買い取るための手続を進めることを約束した。
- Aは約束通り、自己株式の取得に必要な手続きを履践した。
- その際、Aは分配可能額は1200万円であるため、財源規制には違反しない旨を説明した。
- 結果、甲社は、Dが保有する全株式を1000万円で買い取った。
- その後、会計帳簿に過誤があったことが発覚し、分配可能額は800万円であった。
設問1(1)
設問1(1)は、甲社が行なった自己株式の買取りは有効か、について、検討することを求められた問題でした。
手続規制と財源規制
ご承知の通り、自己株式の取得を行うにあたって、会社法は、手続規制(156条以下)と財源規制(461条)の二つの規制を設けています。ですので、自己株式の取得について検討する際は、この2つ規制に違反していないかを検討することになるわけです。
しかし、本問では、事実の第3項に、
甲社、会社法上必要な手続を経て、令和6年3月31日に、Dから、本件株式を総額1000万円で買い取った。
と書かれているので、手続規制違反はないものとして扱ってよい、という出題者からのメッセージがあったと思われます。ですので、財源規制違反のみを検討することになります。
再現答案を公開されている予備論文受験者の多くの方が、財源規制違反について検討していました。
前提論点を書くべきか
上記のとおり、多くの答案は財源規制違反を検討していたのですが、何のためらいもなく、財源規制違反を認定していました。
本年の問題は、民法にかなり時間を奪われると考えられるため、商法はメインとなる論点のみを拾って、守りの答案を書いた結果ではないかと推測されます。
個人的には、何も検討することなく、直ちに財源規制違反を認定してしまってよいのか?という疑問があります。
すなわち、本件株式の買取りは、一応、株式総会の承認を経た計算書類をベースに算出された分配可能額(1200万円)の範囲内で行われているから「分配可能額を超えて」いるとは言えないのではないか、という前提論点を処理しておく必要があるのではなかとうかと思ったわけです。
とはいうものの、商法ばっかりに時間を割くことはできません。ですので、簡単にでも触れておけば多少なりとも点がもらえたのではなかろうかと考えたわけです。
いずれにしても基本書に明記されているような話ではないので、無視してもあまり痛手にはならないと思いますが。
財源規制違反の論証
さて、財源規制違反があった場合の当該取引の有効性については、基本的な論点です。
再現答案の中には、830条2項の枠組みで検討している方がいらっしゃいました。財源規制違反があった場合の効果について定めた条文がないので、決議内容の法令違反により無効である、というロジックでしょうか。
このロジックの合理性はひとまず置いておいて、仮に830条2項を根拠に無効としたとしましょう。
830条2項は、株主総会決議の無効確認の訴えを定めた規定です。そして、ここで請求認容判決が出た場合、遡及効が認められることになります。そうすると、自己株式の取得にあたって、株主総会決議を経ずに行なったこととなってしまいます。
つまり、手続規制違反も認められることになる、ということになってしまいそうです。
これは、いささか厳しいルートになるのではないでしょうか。前述したように、本問では、出題者から「手続規制違反については認められないので、論じる必要がない。」ということと矛盾が生じてしまうことになってしまうからです。
多くの答案は、「手続規制違反はない」という断りを入れた上で財源規制違反について論じていくことになるでしょうから、論理矛盾を確定させてしまうことになります。
そうすると、830条2項で攻めるのは分が悪そうです。
ところで、先ほど、830条2項を根拠として無効とすることの合理性はひとまず置いておくと申し上げました。次は、この合理性について考えてみたいと思います。
830条2項は、株主総会決議の無効を確認するための訴えを認めた規定です。つまり、確認訴訟であって、形成訴訟ではありません。すなわち、株主総会決議の無効確認の請求認容判決がされたとしても、何かが無効になるというものではありません。このことは、828条1項に規定されている各種無効の訴えと比較してみるとよくわかると思います。
株主総会決議の無効と、自己株式の取得の有効・無効という問題は、直ちにリンクしないのではないか?ということを言いたいのです。830条2項で、株主総会決議の無効を確認したとしても、別途、取引の安全について配慮しなくていいのか?という問題について手当てしておく必要が生じることになるのではないか、という疑問があります。
基本書では830条2項について触れられているか
財源規制違反について、基本書では830条2項は触れられているか、調べてみました。
まずは紅白本です。ワタクシ自身、紅白本を使用しているということもあったので調べてみました。
紅白本では、830条2項について特段触れることなく、無効説が妥当ではないかとの説明がされておりました。
田中亘先生の会社法では、有効説を支持する旨の記述がされていました。田中先生は、以前は無効説を支持していたようなのですが、現在では有効説が妥当ではないかと考えていらっしゃるようです。
有効説を指示ているからかもしれませんが、830条2項との関連については、特に記述はされておりませんでした。
最後に(まとめ)
上記のとおり、830条2項で攻めるのは諸々問題がありそうです。
無効にするのであれば、無理に830条2項を持ち出さず、財源規制が敷かれた根拠、趣旨から論証して、無効と結論づけるのが無難であるように思えます。
よくみる論証例は、「財源規制という厳格な要件の下で認めているのであるから、その違反は無効と解するのが相当である。」といった感じのものです。
出題者の意図としては、結論的にはどちらでも構わないとしているのではないかと思われます。
以上、ワタクシなりの分析を書いてみました。冒頭でも述べましたが、公式の出題趣旨が出ていないので、あくまでワタクシ個人の分析であって、これが正解だというつもりはありません。
本問を検討する中で、ワタクシ自身も改めて勉強させてもらいました。
それでは!